一覧へ一覧へ技術インタビュー

3. 特殊形状製品の製作

鵜川幸雄
北海鉄工所 車輌事業部 部長

分岐管や卵型の製品など特殊な形状の製作に携わっている車輌事業部の鵜川氏に、その加工技術についてお話を聞きました。

Y分岐、球分岐、卵型アルミ成型の製造で
難しいのはどんなところですか?

そうですね。弊社で手がけた製品の中で難易度が高いというところでいえば、ダム水道関係の球分岐でしょうか。

使用目的としてはこれ海外のダムの分岐管で水を流すところなんですけども、こういうもので一番重要なのが、まずはお客さまの図面を理解することです。実際に上流側、下流側、それと分岐させる水をどちらの方向に流すかということで、分岐の向かう角度がかなりシビアになるんですよね。

球分岐

そういった中でもう1つ難しいところが、実際に工場の中で加工して組み立てるんですけども、組み立てた後、これだけ大きいものですから、一体もので運べないというケースがあるんです。特に海外向けの案件ですと、製品を解体した状態にして船で運ばないといけないわけです。ですので現地で据え付ける際の工法と、組み立て手順を同時に考えておかないといけないんです。一旦組み立てて形にした状態で、もう一度解体できるようにすることを考えて設計する必要があるということです。

この球分岐の時もそうですけども、実際にもう一度復元しないといけないという作業がありますので、制作依頼をくださったお客さまに完成品を作った後も現地で組み立て要領書ですとか、そういうところまでフォローさせていただく製品になるんです。形になればいいと言うことであれば、溶接で止めてしまえばいいのですが、あとで解体して再組み立てのこと考えないといけないため、現地施工のことも考慮したものづくりということでかなり難易度が高い事例です。

球分岐はどれくらいの大きさのものなんですか?

5メートル以上10メートル以内だったと思います。ですから解体する時にも組み立てのことを考えてどこにクレーンのワイヤーをかけて持ち上げればいいかとかも考えて全てやっておかないと、現地でさあどうして組みましょうということになってしまいます。
工場の中でしたらクレーンがあってどうにでもできますんでいいんですけども、やはりダムの取り付けの工事現場ではそうはいきません。ですから例えばダムの工事現場まで持ち運べる最大限の大きさを確認したりですとか、これを持ち上げる場合はここに玉掛け用のフックを付けてあげるとか、最終段階まで考慮したものづくりをしておく必要があります。そういう意味ではかなり難易度が高かったです。

Y分岐

分岐の製品を作るときに
どんな大きなチャレンジが
ありますか?

毎回特注品なんで、同じものが来ることはほとんどありません。毎回、来たときにこれをどうするかということで、まあ今までの実績と経験をもとに、こういう風にしようという形で取り組んでいきますね。

例えばY分岐で言うと、ちょうど水流が分かれるところ、「またいた」と専門用語で言ってるんですけど、そこをシクルプレートという形で板厚が120mmを超えるぐらいのステンレスの板を、ブーメランのような形でそこに掘り込んでるんですよ。そこは一番水流が当たって、圧が一番かかるところなので、普通の10ミリや20ミリの板ですと変形したりします。ですので単純に平行に30度に分かれてるとか45度に分かれてるとかじゃなくて、片方は若干下に角度がついていたり、もう片方の分岐はちょっと角度を浅くしたり、いわゆる合成角みたいな形になってるんですよね。

ですからその角度を設計通りにきちっとできているかどうかというのを、最終的に検査しないといけないので、組み立てるときにどういう形で最終の検査を受けれるようにしておくかというのが、やっぱりやる前に一番考えるところですね。

現地での溶接を考慮した上でのものづくりなんですね。

工場でできるところは社内で溶接するんですけど、運搬上どうしても現地で継ぎ手の作業が必要な場合が出てきますので、その時のことを考えて、いかに縮みに考慮したセグメントにしておくかなど、溶接の縮みによって変に角度が歪まないような対策をとっておくことが必要となります。

ですからものづくり的にはですね、パーツさえプラモデルのように作って組み立てればいいよっていうもんじゃなくて、どうしても大型製管品の場合ですと、そうした歪みとか縮みとかいろんなことを考慮しないといけないですから、だいたいここでしたら縮みが発生するからいうことで、工場製作の段階で縮みを考慮した寸法設定をしてものづくりをしていくということです。

長年の勘みたいなものもありますね。だいたいこのくらいの溶着量で溶接すればこれくらいは縮むでしょうとか。あと組み立ての状況にもよって、ピタッとくっつけばいいですけど、やっぱり多少隙間が空いたりしますので、そういう場合もその辺の数値も考慮して、寸法公差をいただくということになりますね。

卵型の形状はどのようにして
作るのですか?

北海はもともと鏡板の会社ですので、半球形状いわゆる球体の半分の形状の加工が得意でした。そこから鏡面のようにステンレスを磨き上げた球体のオブジェやモニュメントも作るようになってきました。

球体のモニュメントというのは、ひとつのアールですので、例えば1メートルの球体であれば、プレスで1メートルのアールの型を作ってどんどん押していけばそういう形状になるんです。ですが卵型モニュメントは楕円形ですよね。

卵型アルミ成型

ですので通常のプレスのようにどんどん押していってもこういう形状は出ないんです。ですから作るとしたらプレスである程度曲げておいて、あとスピニングの工法を取り入れたり、昔でしたら職人さんが板金で叩いて曲げるという方法ですかね。

あと、アルミカプセルというのがあるんですけど、無重力状態での落下テストに使用するカプセルをアルミで作ってほしいという依頼で一品で受けた製品です。これはスピニングではちょっとアールが深すぎてできなかったんで、金型を製作してその金型で押してお客様が望む形状を加工して作った製品です。こういうものも無重力の落下状態で実験を行うので、ある程度断面形状をピッタリと出しておかないと実験としてのデータが取れないということで結構形状的にはシビアな製品でしたね。

「長年の勘みたいなものもありますね。」
鵜川幸雄